映画『おおかみこどもの雨と雪』を観ました。その感想を少々。今回はネタバレが多数ありますので、これから観る予定の方はお気を付けくださいませ。

実は、細田守の作品は好きではありません。画作りに関しては、優秀な人だと思いますが、内容に関しては、拒絶反応が出るぐらい嫌いです。普通なら観に行くことはしませんし、興味のアンテナにもかかりません。

興味を持ったのは、富野由悠季の「『おおかみこどもの雨と雪』の衝撃」を読んだことがきっかけです。毒舌家で有名な富野監督が絶賛するなんてと驚きました。絶賛の内容よりも、絶賛していること自体が驚きだったのです。

本来なら、嫌いな人の映画をお金を払って観たくないのですが、映画を観に行く機会があって、他に観たいものがなかったし、富野監督が絶賛してたので、仕方なく観ました。

それにしても、面白かった。実によかったです。

それら過去のジャンル分けなどを飛び越えた物語になっている。描写が冷静だからだろう。文芸大作と言っても良い。それほどリアルに命の連鎖を描き、子供の成長の問題を取りあげている。そこに至った意味は刮目すべきなのだ。

重要なのは、富野監督の言う「子供の成長の問題」という点です。

物語は、大学生の「花」ともぐり学生の「彼」との出会いから始まります。程なくして二人は恋に落ちます。彼は花に「おおかみおとこ」であることを告げるのですが、花はそのことを受け入れ、やがて、おおかみおとことの子供を授かります。雪の日に生まれた姉の「雪」と雨の日に生まれた弟の「雨」。

ところが、彼は不慮に死んでしまいます。花は、二人の「おおかみこども」を一人で育てることになり、人目を避けて、田舎で暮らすことを決意します。

と書いてしまうと、花の母親としての物語であるように思えてしまいますが、そうではありません。いや、そういうつもりで作られていることは確かですが、この作品を支えているものは別のところにあります。それが「子供の成長の問題」です。

120分という尺の中で、13年もの歳月が流れます。中学生になった雪は、寮に入るため、花の元を離れます。雨も、自分の生きる道を見つけ、花の元を離れます。「子供の成長の問題」というのは、親離れ(子離れ)の話でもあるわけです。

花は、母親としてはダメな母親です。世の中のすべての母親も同じです。子供にとって親は毒でしかない。薬になる毒もありますが、それはまれなことです。

しかし、花は、いい母親でもあります。自分がダメな母親であることを自覚しているからです。どうしてそう言えるかと言えば、子供はおおかみこどもですから、ちゃんと育てられるはずがないという前提が厳然と立ちはだかるからです。また、終盤の花の台詞からもそう自覚していたことが分かります。花はダメな母親であると自覚していた。だから逆説的に、いい母親だと言えるわけです。

事実、雪と雨が育ったのは、花のいない場所でした。

雪は、学校という場所で、友達との関係の中で育ちます。雨は、山で「先生」と出会い、先生との関係の中で育ちます。それぞれ、もともとの性格とは真逆とも言える生き方を見つけ、歩み出します。

花の手助けがあったのは確かですが、それでも、花の手の届かないところで育ったんです。他人の目を避けて育てようと引っ越してきたはずが、結局は、他人との関係の中で育ってしまった。そして、「しっかり生き」ていこうとしている。

ちなみに、花自身も、他人との関係の中で成長します。本人もそれを自覚するシーンがありますが、同時に、雪と雨もそうなることを暗示していると言えます。

花はダメな母親故、いい母親故、雪と雨の成長の邪魔をしません。雪が学校でオオカミになったり、雨が山にこもるようになったことを心配はしますが、おおかみこどもの育て方が分からない以上、どうすることもできないので、寄り添って見守ることしかできません。それでよかったのかと言えば、それは、作中のナレーションの雪の語りを聞けば分かります。

そんな感じで、「子供の成長の問題」をよく描けていると思いました。

言うなれば、おおかみこどもという設定自体が、暗喩として優れているということになります。また、この設定のおかげで、花は母親としていい母親になれたと言えますし、雪と雨の対比がより鮮やかなものになっています。

欲を言うと、花はあのシーンで殺してしまってもよかったんじゃないかと思うんですけどね。まぁ、ただでさえ子供には刺激の強い内容なので、控えたのかもしれませんが。生かした理由を想像すれば、雪の将来の助言者とするためか、お前も「しっかりと生き」ろということか。うーん、殺してもよかったのになぁ。

富野監督が「文芸大作」という表現で評したのは少し大袈裟だとは思いますが、その気持ちは分からないではないです。物語として面白いかどうかより(面白かったですよ)、物語の奥に、普遍的な主題が通っているところに魅力を感じます。

何より、母親の物語を描こうとしたら、いつしか子供の物語へ、そして親はなくとも子供が育つ物語に至った点がすばらしい。子育てと教育の真理に迫っています。

で、そんな理屈を並べなくても、十分に面白かったです。

僕はかなりの時間、涙を流しながら観ていました。こういう話に弱いんですね。基本的に、親とか教師とか、子供を教育する立場にある大人の大多数はアホだという確信があるので、そうではない花のような母親の姿と、自分とは違ってまっすぐにしっかりと生きている子供の姿に来ちゃうんです。

惜しむらくは、事前にちゃんと、富野監督のメッセージを読んでおけばよかったなぁということです。実は、絶賛していることは知っていたのですが、観に行くかもしれないと思っていたので、その内容まではちゃんと読まなかったんです。

でも、事前に読んでいれば、もう少し深く楽しめたかもしれない……。

題名からして、ただ作画技術がすばらしいだけの、子供向けのくだらない内容だろうと高をくくっていたんですね。心の準備ができていなかった分、素直に観れたとも言えますが、おかげで、何かを見逃した気もします。またそのうちにテレビで流すでしょうから、そのときには、しっかりと観てみようと思います。