横浜市のいじめ認定問題。

ネットでは、横浜市教育委員会や教育長に対し、的外れな批判の嵐が吹き荒れています。なぜ的外れと断ずるのかと言えば、理解が足りないことが明らかだからです。

そんなわけで、以下、この問題の正しい理解のための屁理屈を。

今回の経緯

まず、今回の経緯について振り返っておきましょう。

被害者の中学1年生は、原発事故をうけて、2011年8月(小学2年生のとき)に横浜市に自主避難をしたのですが、その直後から断続的にいじめを受けていました。いじめを受けたり不登校になったりを繰り返していたのです。

今回、クローズアップされているのが小学5年生のときの「150万円のおごりおごられ」。

被害者側は学校に対応を求め、1年7か月後に、第三者委員会が設置され、調査が始まりました。昨年11月、第三者委員会はいじめがあったことを認定し、市教委や学校の対応を批判する報告書をまとめました。

ただ、「150万円のおごりおごられ」の部分は、いじめ認定を避けたのです。

それ件について、先月下旬、教育長が議会での答弁で「第三者委員会の認定を覆すのは難しい」旨の発言をしたところ、盛大に炎上しました。記憶に新しいですね。ところが今月13日、教育長はそれを謝罪し、一転、いじめであったと認めたわけです。

第三者委員会

そもそも、第三者委員会とは何か、確認しておきましょう。

組織内で重大な疑惑が生じた際、当事者が調査しても信用できないので、当事者から独立した利害関係のない第三者による調査が必要となります。そのために作られる調査チームが第三者委員会です。

もっとも、第三者委員会を設置するのは、その当事者なんですね。

なので、自分たちに都合のいいメンツを集めて、自分たちに都合のいい調査結果を出させるおそれもないわけではありません。そうならないように、徹底した情報公開が求められるわけです。実際、調査報告書はウェブなどで公開されるようになってきています。

今回のいじめの第三者委員会も、一般の第三者委員会と同じです。

2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」で、重大な事案が起きたときには第三者委員会を設置して調査をすることが定められました。いじめ対策法は、学校や市教委が隠蔽に走った「大津市中2いじめ自殺事件」を承けてできたものです。

的外れな批判

さて、横浜市のいじめ問題に話を戻します。

繰り返しになりますが、第三者委員会は、5年にわたるいじめがあったことを認定したものの、「150万円のおごりおごられ」についてはいじめ認定を避けました。

教育長は、そんな第三者委員会の認定を「ひっくり返せない」と言ったわけです。

この発言自体は、その通りなんです。ひっくり返せてしまったら、第三者委員会の独立性が侵されてしまい、市教委や教育長が隠蔽を企めば、それを可能にしてしまうことになります。

そもそも「そういうこと」をなくすために第三者委員会が設置されているわけで、「そういうこと」をできないと言って批判されるいわれはないのです。

ところが。

的外れな批判が殺到し、炎上してしまいました。中には、「第三者委員会の認定を覆せなくて何が教育長だ」とのたまう人まで出る始末。もはや正気の沙汰とは思えません。

あと、「これは恐喝だから、警察に通報しろ」と言っている人もいました。

残念ながら、昨年11月の時点で、神奈川県警は「恐喝として立件困難」としています。おそらくですけど、一緒に飲み食いしたり遊んだりしているからだと思われます(第三者委員会も、小学5年生のこの時期は、いじめ関係から悪友関係に移行していたと捉えている)。

こういったことを踏まえると、ネットの批判は、的外れとしか言いようがありません。

今回の件の難しさ

今回の件は、ちょっと難しいケースだと思います。

学校がその都度、適切な対応をしなかったせいで、いじめ期間が5年にわたってしまいました。これを遡って調査するというのはまさに困難を極めたでしょうね。

  1. 登場人物のメンツが変わる
  2. 登場人物の関係性が変わる
  3. 学校側に過去の資料が残っていない
  4. 関係者の記憶にあやふやなところがある

思いつくだけでも、これらがネックとなったはずです。

まず、小学校時代というのは、クラス替えなどにより関わるメンツが変わったりしますし、5年もあれば、お互いの関係性も一様ではないはずです。

もし仮に、みなさんのお子さんが、クラス替えで今回の被害者と知り合い、彼のお金で遊ぶことがあったとします。あとからいじめだったと言われても困りますよね。「いやいや、うちの子はこの春から仲良くなっただけで、その前のいじめのことは知らない」となりませんか。

実際にそういうことがあったのかどうかは分かりませんけど、そういうことがあったとしたら、それをいじめとして認めにくいというのはよく分かる話です。

次に、学校は定期的にアンケートなどの調査をしていますよね。

しかし、様々な観点から、保管期間を定めていまして、それを過ぎると半ば機械的に廃棄処分されるんです。今回も、調査に必要な資料が廃棄されていたことが分かっています。

そうなってくると、頼みの綱は、関係者の記憶なんです。

こう言うと、「被害者の記憶が一番大事だろ」と思われるかもしれませんが、それは違います。第三者委員会は、誰の味方でもありません。

第三者委員会は、公平公正、中立の立場にあります。

裁判で言うところの、検察官の立場でなければ、弁護士の立場でもありません。そもそも、裁判は、検察と弁護に分かれてバランスをとっているからこそ、検察は被告を責め、弁護は被告を守れるわけです。第三者委員会はそれ単体でバランスをとらなければなりません。

なので、加害者と被害者で食い違いが起きたとき、どちらが正しいかを裏付ける資料がなければ、どちらの証言も支持しないと思います。

そんなわけで、「いまさら分かんねーよ」というケースなんです。

一番悪いのは、ここまで放置していた学校です。批判するなら学校一択です。その都度、適切な対応をしてこなかった学校が何と言ってもおかしい。

無論、市教委や教育長には、学校の指導監督責任もあります。しかし、横浜市ほどの大都市になると、現実問題として、指導監督を行き届かせることは不可能でしょう。これは、市教委や教育長の問題と言うより、大都市制度の構造的欠陥です。

どうしたらいいのか

じゃあ、どうしたらいいのか、です。

僕は先月下旬、次のような一連のツイートをしました。おおむね、この通りにしたらいいと思っているので、そのまま引用します。

二つ目のツイートの(2)がポイントです。

第三者委員会がこのような調査結果を出したのであれば、もう、市教委や教育長に覆す権限はありません。これはすでに述べた通りです。

でも、市長なら、これを覆すことができるんです。

市長は公選職(選挙で選出された立場)なので、ルール上はどうしようもできない場合、ルールを超越した政治判断でものごとを進めることができます。これが支持されなければ、次の選挙で落とされるだけです。と言うか、辞めさせられるから、大きな権限を持たせられるんです。

一転

今回、結果としては、教育長が方針を転換しました。

僕は最初、やってはいけないことをしたなと思いました。教育長が、自身の炎上に耐えかねて、第三者委員会をひっくり返す暴挙に出たんだと。

しかし、教育長のコメント(PDF)を読むと、大事な一文がありました。

先ほど、市長と一緒に、お手紙を拝見しました

市長と一緒にというところがミソで、教育長単独、市教委単独ではダメなんです。市長が一緒だったからこそ、ひっくり返すことができたというわけです。

本当は、仕組みについてしっかり説明した上で、的外れな批判を正すぐらいのことをして欲しかったところですが、被害者の目にも触れるものということで、その気持ちを汲もうとした文面にした感じがするので、まぁ、仕方がないですね。

まとめ

そんなわけで、横浜市のいじめ認定問題についてでした。

結果オーライとは言うものの、おそらく、世間の認識はズレたままになっていることが気になりますね。影響力のある人がしっかり説明してくれないと、今後によくない影響を与えかねません。

ところで、今回、珍しく、行政側の肩を持つような感じになっています。

被害者の気持ちが分かっていない云々(でんでん)言われるかもしれませんが、そういうわけではありません。批判は正しく行うべきだと言っているだけです。