雨の模様
雨が降ってきた。鞄から折り畳み傘を出している間にも雨脚は強まる。トートバッグをかばいながら、傘を差した。中の本は大丈夫かとトートバッグを見ると、生成りの地に雨の跡が点々とついていた。
図書館の入り口の軒先に、うちの高校のジャージを着た女子が立っているのが見えた。バックパックを両手で抱きかかえている。雨宿りだろうか。
近くまで来て、同じクラスの手塚さんだと気づいた。
僕はその横を素通りし、傘立てに傘を差し、返却カウンターへ向かった。本を返し、並ぶ書架を振り返る。何か借りるつもりだったが、図書館の本を雨に濡らすのは嫌だと思い帰ることにした。
傘立てから傘を抜いて差そうとしたとき、不意に「無視すんなよ」と声がした。手塚さんだった。
「さっき声かけたのに」
その声も掻き消さんとするほど雨の音がうるさかった。
「ごめん、雨で聞こえなかった」
「まあ、いいけど」
「何だったの?」
「模様みたい」
彼女は僕のトートバッグを指さした。
「模様が入っているみたい、って」
言われて、トートバッグを持ち上げて雨染みを見た。僕は「そっちも」と彼女のバックパックを指さした。手塚さんはバックパックを覗き込むように見て、「ホントだ」と笑った。
会話はそこで終わった。雨の音だけが、二人の間に残った。
(了)
奥付
雨の模様
- 著者
- QU
- 公開日
- 2026年1月18日