帰巣

餌袋を開いて、スコップで金属製のトレイに移す。トレイを滑らせるように振って均すと、飼料が擦れ合う音と金属に当たる乾いた音が交じり合った雑音が生まれた。「こんなもんだろう」とつぶやいた。

玄関の引き戸を開けて鳩舎を見やると、見知らぬ子供が立っていた。鳩を見ている。小学校に上がるか上がらないかといった感じだ。

「鳩、面白いか?」

そう声を掛けると、子供は振り返りもせずに「うん」と言った。どこの子だろう。

「おじさんの鳩?」

「うん。もう、おじいさんだけどね」

「ふうん」

年寄りには興味がないらしい。

鳩がウーウーと喉を鳴らしている。少し落ち着かせてからのほうがいいかと、隣の畑を見に行った。何も植わっていないから、土を見るしかない。猫の足跡があった。

トレイを持つ手を交互に替えて、揉むように手を動かした。西の山には日が落ちようとしている。子供はじっと動かない。

ふむと鼻を鳴らし、鳩舎のほうへ戻った。

「いまから餌をやるんだけど、見るか?」

そう声を掛けると、「うん」と返ってきた。さっきより、声が弾んでいた気がした。

鳩舎の扉を開けると。

入り口近くで羽根を動かしていた一羽が飛び出した。

「あっ! 逃げた!」

子供はそう声を上げると、私のほうを見た。怯えているように見えた。

「逃げちゃったね。でも、大丈夫だよ。鳩はちゃんと帰ってくるから」

「本当?」

「多分ね」

虚飾なく言ったつもりだった。

子供は唇を震わせると、大きな口を開けて泣き出した。

「大丈夫だよ。鳩は帰ってくるよ。僕のせいじゃないよ」

言葉では止められなかった。犬を散歩させている人の視線がつらい。

子供の泣き声を聞きながら、自分の顔がほころんでいることに気づいた。

子供はしばらくして泣き止み、帰って行った。早く帰ってくるといいと思った。

(了)

奥付

帰巣

著者
QU
公開日
2026年2月8日