雨予報
傘を歩道脇のガードレールに立てかけた。
鞄の内ポケットからティッシュペーパーを取り出し、マスクを外して鼻をかんでいると、立てかけた傘が倒れていく気配を感じた。パサッと乾いた音がした。
ティッシュを丸めながら、倒れた傘に目をやる。マスクをし直し、かかんで傘を拾い上げる。その指先に砂のざらつきを感じた。と、丸めたティッシュが手からこぼれ落ちた。それを拾い上げようとかがんだとき、また鼻水が流れてくるのを感じた。
近くのベンチに腰を掛ける。
「何やってんだろう」
吐息とともにそんな言葉が漏れた。声にならなかったかもしれない。
暗い雲の切れ間から日が差した。傘を手に取り、立ち上がった。すぐ裏の公園に入る。木陰にあるベンチを見つけ、そこへ腰を下ろした。その前を、ジョガーが何人も駆け抜けていく。
スマートフォンを開く。「降水確率90%」の文字が目に入る。
「いつ降るんだよ」
そう独り言ちたとき、後ろから子供の泣き声が聞こえた。
体を捻ってそちらを見たとき、組んでいた足が座面に立てかけていた傘に当たり、パサッと乾いた音がした。
泣き声に、独特のイントネーションで謝る声が混じった。
『ごめんなさい』
ベビーカーを押した母親らしき人物は、何やら言ってから、立ち尽くして泣きじゃくる子供を置いてその場を離れようとする素振りを見せる。その姿を見て、子供はまた強く泣いた。
『ごめんなさい』
子供は繰り返す。
言葉が届くうちは簡単だろう――と、ベンチから立ち上がった。傘を倒したことを思い出し、かがんで拾い上げる。子供の泣き声が止んだ。振り返ると、もう親子の姿は見えない。
スマートフォンのメッセージアプリを開いたが、何もせずに閉じた。まだ間に合うのだろうか。何度目だろう。傘のネームバンドが突然ちぎれた。スマートフォンのカメラを向けたとき、くしゃみが出た。
(了)
奥付
雨予報
- 著者
- QU
- 公開日
- 2026年4月26日