音の出どころ
どこからか音がする。
左右を見回したり、振り返ったりして出どころを探ってみたが、掴めない。遠くからなのか近くからなのか、前からなのか後ろからなのか、それすらはっきりとしない。
何の音だろう。
それがわかれば、出どころの見当もつくかもしれない。そう思って耳を澄ませた。音は散るように消えていった。耳からも、記憶からも。音がしていたことが嘘だったような感じがした。
無音の中を歩いた。
足音も衣擦れの音もしない。何なら呼吸音さえも。
聞こえたところで何にもならない。
無音のままでかまわない。
音がなくても私はこのように生きている。
忘れかけたころ――とうに忘れてしまっていたかもしれない。
また、音がした。
出どころを探ろうとは思わない。どうせ見つけられない。やがて聞こえなくなって、また無音のときが訪れる。
音がなくてもよかったように、音があったってかまわない。それは私を支配しない。私は私だから。
しかし、音は残った。
残り続けて、気配になった。
そう飲み込んだ。
小さな熱が生まれた。
ゆっくりと大きくなって、身体を侵してゆく。
いや、ゆっくりではない。
気づくのが遅かっただけで、とっくに侵されていた。
音は音ではなかった。
私が誰かと触れた。
出どころは、そこだった。
(了)
奥付
音の出どころ
- 作者
- QU
- 公開日
- 2026年9月6日