澱の下で
あの山が遠くにあるのか近くにあるのか、測りきれない。
輪郭がぼやけてなお、胸がざわめいているうちはまだそれほど遠くではないのだろう。あるいは、すぐ背後に張りついているのかもしれない。
忘れたくて、そのための日々を過ごしている。それでも、ちらつき、手が止まる。気配を感じる。逃げ切れてはいない。いつまで続くのか、見えない未来に溺れそうになる。
いっそ溺れて沈むのもいい。
底に積もった澱は、どれも忘れたい断片だ。目を閉じ、耳を塞ぎ、息すらも止め、身を縮こませた。
自分の体と澱との境界が掴めないほど沈んだとき、このまま、自分も澱になっていくような感覚に襲われた。望んだことだったろう。
しかし、頬を伝う熱さを感じた。
その熱さが手をもがかせ、足をばたつかせた。
誰もいないはずの底のちっぽけな光は、十分に眩しかった。眩しくても目を開かずにはいられなかった。頬にやわらかな温もりを感じた。
その温もりを保ちたくて、そのための日々を過ごしている。いつでも、ちらつき、手が止まる。気配を感じなくても、この気持ちがあれば、事足りる。
積み重なっていた澱は、自分で積み重ねた澱だったのかもしれない。それをやめたとき、自然と身は浮かんだ。
(了)
奥付
澱の下で
- 著者
- QU
- 公開日
- 2026年3月1日
- 備考
- 実験的な習作。