一 古い手紙
棚の奥から、木箱を取り出す。埃が立って空咳が出た。
母から譲られたものだ。蓋には葡萄の蔓と葉が彫られていたが、とうに角は落ち、いまでは何の模様か判別できない。記憶だけに残っている。
母が文箱として使っていたから、私も倣った。古い手紙が入っている。まだ十代だったころのものだ。
蓋を開けると、黴臭さが鼻を刺した。手紙の束は、思っていたより傷んでいた。触ると朽ち果てそうなものもある。
その中で一つだけ、真新しく見えるものがある。今日届いたものだと言われればそうかと思ってしまうほど、それは、場違いな雰囲気を纏っていた。
ミリア・オルドリスへ
ゾルダン・メーレンより
三十五年前の古い手紙だ。
ランプの火がちらつく中、それを開くかどうか、ハーブティーを飲みながら考えた。
若いころ、魔法使いを訪ねたことがある。