「あのさ、お金、欲しいんだけど」

「ん? なにか買うの?」

「いや⋯⋯そういうわけじゃなくて」

「何?」

「うん。海に、行きたくて」

⋯⋯海に、行きたい?」

冷蔵庫をパタンと閉めながら、母は復唱するようにそう訊き返した。その表情が曇った気がして、僕は視線を伏せた。何か月も学校へ行ってないやつが何を言い出すのかと後ろめたくなった。うそうそ、やっぱりいいやと取り消そうとしたとき。

「そう。いいんじゃな~い」

母はそう言った。声の明るさに驚いて、母の顔を見た。表情は晴れやかに見えたが、目尻の皺は思ったより深く見えた。