八
八時すぎに目が覚めた。
体を起こそうとするもあちこちが痛い。ちょっと海へ行ってきただけなのに。溜め息をついた。スマートフォンに手を伸ばす。SNSを開いてタイムラインを流した。ここ何日か投稿していないのに、タイムラインは流れている。それだけを確認して閉じた。
体の痛みを堪えつつ階段を降りると、姉の鞄が無造作に置かれていた。
雑なやつだと思いながら、鞄を跨いだとき、ジャラ付けされたキーホルダーの群れに、カッパカエルを見つけた。
リビングの入口で姉と鉢合わせした。
目も合わせないし、何も言わない⋯⋯だろうと思っていた。
「ありがとう」
背後からそう聞こえた。振り返ったが、姉はこちらを見ていない。
「お金、ありがとう」
届いたかどうかはわからない。
姉は鞄を持ち上げると、「あんた、趣味悪いわ」と言った。「うっせーわ」と返した。姉は鞄を少し高く掲げて、「私は、嫌いじゃないけど」と言った、気がした。キーホルダーの群れが小さく、賑やかに音を立てた。
黙って朝食を摂ったあと、部屋へ戻った。
ドアを閉めた途端に涙が溢れた。そのままベッドに潜った。ベッドはもう冷えていた。その冷たさに自分を溶かした。
気がついたら、昼になっていた。
軋む体を起こして、ベッドから出た。窓へ近づき、スポーツカー柄のカーテンを開けた。目を細めて、外の眩しさに耐えた。
(了)