十 頼み
何度転んだかわからない。足がもつれる。
息を切らしたまま、ドアノッカーを叩いた。喉が痛くて思うように声が出なかったが、絞り出すように名を叫んだ。
閂を外す音がして、ゾルダンが出てきた。
「ミリアさん、一体、どうしたんです?」
「祖母が……祖母が……」
私はその場にへたりこんだ。
「朝、祖母が倒れて……。修道士さんが……もう……薬は必要ないって」
涙が溢れる。
「わああああ……!」
止まらない。
ゾルダンの顔を見上げると、彼の目は、ただ、泣いている私を見ていた。その目を見ていられなくなって目を伏せた。頭の重さに任せるまま、額を地面につけた。
「お願いです……祖母が……」
祖母が倒れ、修道士にもう助からないと言われたと叫んだ。
そして――
「祖母を……魔法で、助けてください……!」
冷たい風が二人の間を通り抜けた。
「ミリアさん、申し訳ありませんが、魔法は使いません」
頭上から、その声が降ってきた。
体の震えが止まらなかった。
「あなたは……いつもそうだ……」
擦りむいた手の平を握り締めた。
私は、彼がきっと隠しておきたかったであろうことを、市場の人形、尖塔の椅子のことを口にした。涙が地面に染み入るのを見ながら、責め立てた。言ってはいけないと分かっている言葉ほど、喉から出ていくのが早かった。産毛の逆立ちと頬の火照りを感じた。
ゾルダンはどんな表情で聞いているのかと顔を見上げた。その顔には表情がなかった。私は、こんなに、苦しんでいるのに。
「ミリアさん」
その声が消えるか消えないかのうちに、私は立ち上がり、走り出した。
その夜、祖母は静かに、目を覚ました。
司祭も修道士も「奇跡が起きた」とだけこぼした。藁床で横になる祖母の手には確かなぬくもりが戻った。