六 市場で
腰に手を当て、体を反らせる。
朝から手伝いで、布地を運ばされた。何も市場が開かれる日じゃなくてもと、同じ愚痴を何度もこぼした。靴は糞だらけだ。
このまま帰ってもいいが。
ぶら下げたポーチの重みが背中を押して、寄り道することにした。さっき吟遊詩人らしい歌声を聞いたことを思い出し、広場へ向かった。
タンバリンの弾けるような音と、拍手が聞こえた。
「あ。終わっちゃった……」
息を切らしながら、そうつぶやいた。人混みで吟遊詩人の姿は見えない。市場に本来の喧騒が戻る。諦めて家に帰ろうと踵を返したとき、観衆は静まり、ささやくようなリュートの音が聞こえてきた。
「これは、亡きエシュメール公に捧げる歌です」
エシュメールがどこの領主かは知らない。距離があるせいか、ところどころ聞こえない。それでも、吟遊詩人の歌声は心に響いた。遠くから聞こえる咽び泣く声ほどではないが、目に胸に、熱いものを感じた。
再び、静かになり、控えめな拍手が起きた。
祖母の顔が頭に浮かび、早く帰ろうと、伏していた顔を上げると、角を折れていく見覚えのある背中が見えた。気づくと、人の波に逆らって、足が動いていた。
やはりゾルダンだ。外れにある露店の前にいた。近くの露店の裏へ回り、そこからゾルダンの様子を見る。
ゾルダンは、ショルダーバッグから布製の袋を取り出した。それを袋ごと露店商に渡すと、露店商は、吊るされた籠から小銭を指で掻き出して、ゾルダンに渡した。会話はほとんどなされていないように見えた。
ゾルダンは受け取った小銭をポーチにしまうと、元来た道を戻るように歩き出す。私は、コイフを深く直し、息を飲んだまま、テントの影からその背中を見送った。
家の近くで、鞄から人形を取り出した。
手彫りの、鳥を彫ったものだと思われる。その歪な人形をもう一度、鞄にしまいこんだ。