三
すっかり暗くなった。田畑は闇の中だ。
コートの襟を整えながら、目の端で女性を見た。姿勢よく、田畑の方を真っ直ぐに、見ていると言うより、ただ向いているだけのように思われた。この町の人だろうか、どこへ行くのだろう……と、いつしか女性の輪郭を追ってしまっていた。
何も考えたくなくて、スマートフォンを開いた。画面の眩しさに目を細めるも、次第にバックライトが柔らかくなっていく。時刻は四時を回っていた。やはり通知がいくつも来ていたが、無視してSNSを開いた。一つひとつの投稿は意識まで上らない。どうしても電柱の姿を思い浮かべてしまう。タイムラインをざっと流して閉じようとしたとき、遅延情報が目に入った。
「えっ」
思わず声が出た。女性の方を向くと、女性も驚いた顔でこちらを向いていて、目を見合わせた。
「なんか、事故で遅れているそうです。電車」
「そうなんですね」
女性はスマートフォンを取り出し、「あと五分なんですけど……来ないですかね?」と訊いてきた。知る由もない。「どうでしょうね……」と首を傾げて見せた。
その五分もとうに過ぎた。
田畑の向こうの道に車のライトが流れるのが見える。ポケットに手を突っ込みながら、その光を目で追った。不意に、ごそっと物音がして振り向いた。
女性がスマートフォンを手に駅舎から出ていくところだった。女性の座席には、大きな鞄が置かれていた。