三
目的の駅に着いた。
その一分ぐらい前からドア近くに立ち、ドアが開くとともに下車した。開放感はあったものの、吐いた息は重かった。
スマートフォンを取り出し、「海の近くの駅に着いた」と母にメッセージを送った。スリープさせてバッグに戻す前に「OK」というスタンプが返ってきた。
駅前は閑散としていて、見回せる範囲には、何の店もない。ロータリーの雑草が目立つ。小さな駅だとは知っていたが、コンビニすらないとは思わなかった。
十分ほど歩くと、食堂があった。漁港が近いからか、生しらす丼の幟が出ている。外のメニューを見ると、安いものでも千円は超えてしまうようだ。
母に「いくらあればいい?」と訊かれて、三千円と答えるつもりが、口から出たのは「二千円あれば」だった。電車賃がそれぐらいだったから、昼飯は諦めるつもりでいた。
家を出るとき、母がもう二千円を渡してきた。
「お姉ちゃんから。昨日の夜、あんたが海へ行くって話したんだよ。そしたら今朝になって、渡してくれって。これでごはんでも食べなって」
言葉が出ず、二度三度、大きく頷いてから受け取った。
「自分で渡せばいいのにね。あの子も、アレだよ」
母は笑った。その顔を見ることができないまま、「じゃあ、行ってくる」と家を出た。
お金が足りないわけではない。
でも、そのお金を使っていいとは思えなかった。姉がアルバイトで遅く帰る日があるのを知っている。それに、高校生みたいなのが平日の昼間に一人で入れる店だとも思われない。気づくと足元の影を見ていた。いまにもアスファルトに溶けて消えそうだった。